2014年 11月 14日
外交官の一生 / 石射 猪太郎 最近読んだ本。戦前/戦中を日本の外交官として過ごした著者の回想録。主に1910年代から終戦まで様々な国へ赴任時の話が書かれており、激動の時代において歴史の授業で習うような出来事が時系列で登場し、その時々の心情や現地での詳細な状況などを読むにつれ、今まで「知識」として認識していた歴史上の出来事を、あたかも同時代を軽く追体験できるような感覚があって新鮮だった。特に盧溝橋事件以降、軍部の方針に抵抗しなんとか戦争拡大阻止のために奔走する様子は切迫感がある。しかし、遂には日中全面戦争に至り、後、南京事件の報に「これが聖戦と呼ばれ、皇軍と呼ばれるものの姿」と嘆くことになる。著者はこの時代において平和志向で外交官らしく国際的な視野で大局を見ており、ファッショ/右翼の跋扈や、軍の好戦的な態度に度々嫌悪感を示している。満州事変では自分が満州国建設に協力したことは溥儀の就任式に出席したことだけだ、と回想し、太平洋戦争半ばにおいては外国の短波放送を知れる立場におき、戦争継続は不可能と早々に予想している。国民が戦争に浮かれる様も苦々しく感じており、当時でも著者のような理性的/客観的な人物も決して少数ではなかったと思われるが、徐々に狂気の軍事国家と化した大日本帝国は、結局は国家滅亡の一歩手前まで戦争を止めることが出来なかったことに空恐ろしさを感じる。他に読んで感じたことは、戦前というと現在とは断絶したまるで別世界のように感じるかもしれないが、100年近く前でも様々な国に領事館を置き各国に邦人居留民が存在しており、日本はとっくに近代的な国際社会だったんだなぁと。明治からが近代と考えるとまあ当たり前なんだけど、やはり歴史の教科書だけでは実感としてはなかなか分かりづらかったことが、外交官としての職務やその日常、現地の様子などの描写を通して伝わってくるものがあった。分厚くてなかなか読むのが大変だったけど、とても面白い。
by yoakenoban_2
| 2014-11-14 03:59
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