2015年 02月 04日
日本本土決戦 -昭和20年11月、米軍皇土へ侵攻す- / 檜山良昭 誰が言ったかわからないが「歴史にifはない」、ということで基本的に架空戦記という物にはそれほど興味がないわけなんだけど、なんとなく気になるifもあるわけで。本書は、もし太平洋戦争で原爆の開発が1年遅れ日本本土決戦になっていたら、という設定の元に話が進む小説。結論から言うと凄まじい犠牲を生むわけで、読者は、あ~本土決戦がなくてよかった、と思うだろうが、そうなると「原爆の投下が戦争終結を早めた」という、アメリカの原爆投下は正しかった理論に与することになってしまうのが日本人としてはジレンマを感じるところ。しかし歴史というものは様々な意味や要素を持つ出来ごとの積み重ねなわけで、ある一面からだけ見ると凄くイデオロギッシュに見えてしまうのが常。原爆の投下が結果として日本の降伏を早めたのはひとつの事実ではあるが、非戦闘員を無差別に殺戮した原爆投下は人類史上に残る戦争犯罪である側面も同時に持っているということは忘れないようにしたいですね。話が逸れたけど本題。原爆が投下されなくても45年に入ってから最早日本の敗北は必至の情勢で、政治家は連合軍に対する降伏を模索するんだけど、陸軍による講和派の要人暗殺とクーデーターが発生、天皇は事実上の軟禁状態に置かれ、無条件降伏ではなく少しでも有利な講和条件を引き出すために徹底抗戦。そこに脱走兵の話やら、天皇を誘拐して独自に講和を引き出そうとする日系人部隊の話やらが絡んでくる。そして戦闘は荒唐無稽な戦争物語ではなく、それぞれ本土決戦を想定していたアメリカ名「ダウンフォール作戦」、日本名「決号作戦」に沿って書かれていく(実際にはアメリカの九州上陸の「オリンピック作戦」と関東侵攻の「コロネット作戦」を総称してダウンフォール作戦と呼ぶようだが、本書では天皇誘拐作戦をダウンフォール作戦と呼称している)。さて、日本の決号作戦はというと、とにかく特攻、特攻、また特攻。敵が洋上にいれば船や航空機で特攻、上陸して来たならば軍民問わず火炎瓶や手榴弾、果ては爆弾を背負って特攻。女性や子ども関係なく、国民学校の先生は児童を率いて米兵の戦車に向かって特攻。とにかくこれでもかというくらいに人が死に、都市という都市は空襲で焼け野原になっていく悲惨の一言。これが実際に考えられていた作戦だと思うと寒気がするわけだけど、似たような事が行われたのが沖縄戦なわけで。日本国民が何十万人死のうと陸軍の偉い人は興味を示さず、米軍に与えた損害報告に満足そうに耳を傾ける・・・敵に一撃大きな打撃を与えて有利な条件で講和に持ち込むというのはこの小説に限った話でなく、実際の戦争も陸軍のメンツのために無駄に長引いた側面がある。神風特攻隊は家族や故郷を守るために死んでいったんだ、というのは本人達はそう思っていたかもしれないが実際に軍の考えていたことはその守るべき家族も故郷も灰燼に帰すまでの徹底抗戦。この少しでも有利な条件の講和、とは要は国体護持=天皇制という事になるんだけど、別に天皇自身がそれを望んでいたわけではなく、あくまで周りがそれにこだわり破滅に進んでいくというこの様は一体なんなのか・・・と考えるとやっぱり宗教なんですかね。比喩ではなく、国家神道。大日本帝国は表向きは信教の自由があったけど、神道は全ての宗教の上に位置する信仰すべき模範となっていた。戦前の日本はとてつもない宗教国家だったわけだ。そんなわけで破滅に向かって突き進む本土決戦は最終的には松代へ移動した大本営は天皇ともども自爆の道を選び、日本はアメリカとソ連に分割統治、一千万人が戦死しさらに国土の荒廃により500万人が餓死する試算のなか終戦。そう、歴史にifはないのだが、何かが違えば北海道は北朝鮮のようになり、日本も未だ発展途上国のひとつだったかもしれない。本土決戦がなくて本当によかった。
by yoakenoban_2
| 2015-02-04 19:33
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